私は、ビジネスの右も左もわからないまま、2018年に会社を立ち上げました。日本酒に関わる事業に取り組むなかで生まれたのが、高級日本酒ブランド「TAKANOME」です。
日本から世界に通用する高級ブランドをつくりたい。その思いで、ヨーロッパのラグジュアリーブランドをはじめ、世界で支持されるグローバルブランドや、日本の高いブランド力を持つ企業から学んできました。
しかし、外から見えるのは、商品やデザイン、店舗、広告といった表現が中心です。その裏側にある事業の仕組みや投資判断、ブランドを長く育てるための運営までは、容易に見えてきません。私自身、最初は目に見える部分を見よう見まねで取り入れることが多く、その背景への理解は浅いままでした。
マーケティングやブランドに関する本も、手に取れる限り読み続けました。それでも、全体像を理解せずに個々の考え方や方法を取り入れていたため、学んだことをどう結びつけ、自社の判断に生かせばよいのかがわかりませんでした。学ぶほどに混乱し、多くの失敗を重ねてきました。
それでも、失敗と学習を何年も重ねるうちに、事業全体の点と点がつながるような感覚がありました。長く支持されるブランドを支えているものは何か。私がたどり着いたのは、一貫した哲学を中心に据え、緻密なブランド戦略と数値に基づく経営管理を土台として、人間の創造性を開花させるという、ブランド運営の全体像でした。
哲学・思想は、事業の中心に深く根を張り、何を大切にし、どのような未来を目指すのかを定めます。そして、論理は、その思想を実現するための道筋を描き、創造性を支える。創造性は、理論や数値だけでは導き出せない表現や体験を生み出し、社会に驚きと感動をもたらします。
個々の方法だけでなく、それらが事業全体の中でどうつながっているのかを理解することで、それぞれの施策の目的や役割を捉えられるようになりました。同時に、どこに可能性を見いだし、何に大胆に挑戦するべきかも、考えられるようになったのです。この気づきは、私にとって、ブランドをめぐる混乱を解き、経営の意思決定を支える大きな転機になりました。
さらに、理論と数値を積み重ねるだけでは、一流のブランドには届かない。最後の一歩を生み出すのは、人間の創造性と、細部にまで行き届く美意識だと考えています。
どれだけ理論を学び、明確な哲学を持っていても、それを商品や体験として届けなければ、顧客の心は動きません。目の前の顧客をどこまで深く考え、その先にある事業、社会、世界の未来まで、どれだけ思いを巡らせられるか。そして、その思いを、素材や形、言葉、接客といった一つひとつの細部に、どこまで徹底して宿せるか。「神は細部に宿る」。偉大なブランドへと近づく最後の一歩は、こうした妥協のない仕事の積み重ねにあるということを試行錯誤の中で学んできました。
私はその後、運営していた企業の資本提携を機に、代表を退任しました。そして、8年間のブランド運営を通じて培った知見を生かし、日本から世界に羽ばたき、日本人が誇れるブランドを連続的に生み出す企業として、STAN創研を立ち上げました。
STANという名前には、私たちが目指す事業のあり方を込めています。Science(科学)を土台に、社会全体の心の豊かさを考えるThought(思想)を持ち、新たなTechnology(技術)を活用し、Arts(芸術)のように人の心を動かす事業を生み出す。そして、人がNature(自然)と共に、自然体で豊かに、生き生きと暮らせる社会を築いていきたいと考えています。
私たちが目指すのは、総合力の高いブランドを生み出すことです。総合力とは、継続的に利益を生み出しながら、関わる人々の暮らしを豊かにし、自然を大切にし、文化を受け継ぎ、新たな価値を生み出していく。その営みが顧客や従業員、取引先、地域社会との関係を豊かにし、そこで育まれた信頼や協力が、さらに事業を支えていくこと。私たちは、ブランドを育てることを通じて、こうした好循環を生み出したいと考えています。そして、この好循環を作ることがブランド運営の最大の面白さであり、私がブランドを最後は総合芸術と考える理由です。
一貫した哲学と高い美意識を持ち、事業として長く支持されながら、社会や文化、自然環境にも良い影響をもたらす。そのような、強く、美しいブランドを日本から増やしていくことが、STAN創研の目標です。そのために、私たちは理論武装したアーティスト集団のように自由な発想で、人の心を動かすものをつくり続ける企業でありたいと考えています。